オーストラリアで2024年11月に可決された16歳未満の子どものSNS利用を禁止する世界初の法律が、2025年12月の施行に向けて動き出しています。法案可決後、米メタやTikTokなどの大手SNS運営企業は対象アカウントの凍結方針を表明し、法律順守の姿勢に転換しました。しかし、年齢確認の方法が企業任せとなったことで、規制の実効性に疑問の声も上がっています。
01.2025年12月施行予定の世界初SNS禁止法
オーストラリアで16歳未満のSNS利用を禁止する法律が、2025年12月10日に施行される予定です。2024年11月28日に上院で賛成34票、反対19票で可決、前日の27日には下院で賛成102票、反対13票で通過し、連邦総督の裁可を経て正式に成立しました。法律は成立から約1年後の施行が予定されており、SNS運営企業には対応準備の期間が与えられています。
- 対象プラットフォームはInstagram、Facebook、TikTok、X、Snapchat、Redditなど
- 違反企業には最大4950万豪ドル(約50億円)の罰金
- YouTubeも禁止対象に含まれることが後に発表された
- 施行日は2025年12月10日(成立から約1年後)
施行までの準備期間
法律は成立から約1年後の2025年12月10日に施行される予定です。この期間中に、SNS運営企業は年齢確認システムの構築や対象アカウントへの対応を進める必要があります。しかし、年齢確認の具体的な方法については企業に委ねられており、準備の進め方には各社で差が出ています。
法案可決の背景
アルバニージー首相は記者会見で、SNS上でのいじめなどが原因で子どもを失った親たちに会ったことが、この問題を放置できないと思った理由だと述べました。オーストラリア国民の約77%がこの法案を支持しており、8月の61%から大きく上昇していました。近年、子どもたちがSNSを通じて深刻ないじめや性被害に遭うケースが増加しており、保護者を中心に規制を求める声が高まっていました。
02.施行に向け、SNS企業が方針転換
法案可決後、当初は規制に反発していたSNS企業も、法律を順守する姿勢に転換しました。上院公聴会では、メタ、TikTok、Snapなどの大手SNS企業の責任者が出席し、対象アカウントを一時凍結する方針を表明しました。しかし、年齢確認の方法や精度については企業に委ねられることになり、実効性への懸念が残っています。
メタの対応と準備状況
InstagramとFacebookを運営するメタは、オーストラリアとニュージーランド担当のポリシーディレクターを通じて、約45万の16歳未満のユーザーアカウントに連絡する方針を明らかにしました。施行日までに、対象ユーザーには2つのオプションが提示されます。
- すべての写真とデータを削除する
- 16歳になるまでアカウントを保存する
メタの広報担当者は法律を尊重するとしながらも、このプロセスに対して懸念を表明し、証拠や若者の声を十分に考慮せずに法案通過を急いだと指摘しました。
TikTokの対応
TikTokの運営会社ByteDanceも、オーストラリアに約20万人の未成年ユーザーがいることを明らかにし、同様に法律順守の方針を示しました。年齢認証システムの強化と、行動パターンに基づく年齢判定の仕組みを導入する計画です。
Snapの対応
Snapchatを運営するSnapは、オーストラリアに約44万の未成年アカウントがあるとし、施行日以降、25歳であると主張していても行動が16歳未満と判断された場合はアカウントを無効にすると表明しました。
03.年齢確認方法は企業任せ、実効性に疑問
施行を前にした2024年9月、オーストラリア政府は重要な方針転換を発表しました。年齢確認の方法や精度について特定の方法を指示せず、企業に委ねるという決定です。当初は政府主導で新たな年齢認証技術の開発を目指していましたが、施行までに確立できず、結果として各SNS運営企業の判断に任せることになりました。
年齢認証技術の確立に失敗
オーストラリア政府は官民共同で新たな年齢認証技術の開発を目指しましたが、施行までに確立することができませんでした。その結果、SNSの全利用者に一律に年齢確認を義務付けることも見送られました。年齢確認の方法や精度は各SNS運営企業に委ねられることになり、規制の実効性が薄れるのは必至です。
- 各企業が独自の年齢確認システムを採用する形に
- 自動化された行動検出システムによる年齢推定
- VPNなどを使った回避手段への対応が不透明
企業独自の対応策
年齢確認の具体的方法が企業に委ねられたことで、各社は独自の対応を進めています。メタやSnapは、25歳であると主張していても行動パターンが16歳未満と判断された場合、施行日からアカウントを無効にすると表明しました。しかし、この判定基準の正確性については疑問の声も上がっています。
04.子どもの安全面における両面性
この法律は子どもの保護を目的としていますが、専門家からは意図しない危害をもたらす可能性も指摘されています。SNS利用の制限が、必ずしもすべての子どもにとって最善の結果をもたらすとは限らないという懸念です。
保護される側面
法律の支持者は、この規制によって子どもたちが以下のようなリスクから守られると主張しています。
- SNS上でのいじめや嫌がらせからの保護
- 有害コンテンツや暴力的な動画への接触の防止
- SNS依存や過度の使用による心身への悪影響の軽減
懸念される側面
一方で、メンタルヘルス専門家からは重要な指摘がなされています。特にLGBTQIコミュニティや地方に住む子どもたちにとって、ソーシャルメディアは重要な支援ネットワークとなっているという点です。
- 孤立した環境にいる子どもたちの支援ネットワークの喪失
- 必要な情報やサポートへのアクセス制限
- 16歳になった際のデジタルリテラシー教育の不足
オーストラリア国家人権委員会の見解
国家人権委員会の子どもコミッショナーは声明で、子どもの安全確保は必要であることを認めつつ、子どもたちを守るのは危険なものを何でも禁止するよりも複雑だと述べています。
教育の重要性
専門家たちは、単純な禁止ではなく、メディアリテラシー教育やデジタル技術の適切な利用に向けた個別のアプローチが必要であると指摘しています。政府が全面禁止に突き進めば、守ろうとしている人々自体に害を及ぼす可能性があるという警告です。
05.世界への波及効果
オーストラリアのこの決定は、世界各国のSNS規制の議論に大きな影響を与えると予想されています。すでに複数の国で同様の規制が検討されているからです。
他国の動向
オーストラリアの法律制定を受けて、各国でも子どものSNS利用規制に関する議論が活発化しています。アルバニージー首相は、話をした各国の指導者らがオーストラリアの取り組みを称賛したと述べています。
- 米国フロリダ州では14歳未満のSNS利用を禁止する州法が成立済み
- フランスでは15歳未満に保護者の同意を義務付ける法律を施行
- 米国の35州で子どものSNS利用制限に向けた動きが進行中
日本での反応と議論
日本国内では2024年11月、オーストラリアのSNS規制を受けて、インターネット上の青少年保護に関する検討会が立ち上げられました。闇バイトなどSNSがきっかけとなる犯罪への対策として、SNSの適正利用について幅広く議論を重ねると発表されています。
日本では現在、SNSの利用を禁止する法案はありませんが、18歳未満の場合はSNS運営会社および保護者が安全にSNS利用できるように措置を行う旨が定められています。
06.2025年施行に向けて残された課題
2025年12月10日の施行に向けて、多くの技術的・社会的課題が残されています。年齢確認方法の不透明さ、実効性への疑問、子どもの権利との兼ね合いなど、約1年間の準備期間の中でどこまで解決できるかが注目されています。
拙速な審議プロセスへの批判
この法案は、政府による発表からわずか1ヶ月足らずで両院を通過しました。専門家や市民に意見を提出する期間はわずか1日しか与えられず、委員会は3時間の公聴会を開いただけで翌日には報告書を提出しました。
オーストラリア国家人権委員会は、複雑な問題を過度に単純化し、意図しない危害をもたらす可能性があると警告しています。十分な協議のないまま、詳細が決まっていない状態で可決されたことへの懸念が表明されています。
子どもたちの反応と回避策
現地の報道によると、10代の子どもたちは法案を不満に思っており、VPNを使って接続する方法について話し合っているとされています。フランスの事例では、対象者の約半数が規制を回避できていることが明らかになっており、オーストラリアでも同様の事態が懸念されています。
YouTubeの扱いが後に変更
当初、教育や健康関連のサービスとして規制対象外とされていたYouTubeも、政府の発表により禁止対象に含まれることが明らかになりました。この方針変更により、企業側の準備や利用者への周知にも影響を与えています。
まとめ
オーストラリアで2025年12月に施行される世界初の16歳未満SNS禁止法は、子どもの保護とデジタル技術の利用をめぐる複雑な問題に対する一つの回答です。メタやTikTokなどのSNS企業は、当初の反発から一転して法律順守の姿勢を示し、対象アカウントの凍結準備を進めています。
しかし、年齢確認方法が企業任せとなり、約1年の準備期間の中で実効性のある対策を構築できるかが課題となっています。施行後の影響を注視し、2年後の法律影響レビューでの検証が重要となります。禁止という手段だけでなく、デジタルリテラシー教育や適切なサポート体制の構築も含めた、包括的なアプローチが求められています。